議会評価・議員評価の研究

議会評価・議員評価の研究

昨今の自治体議会改革のなかで、議会評価・議員評価があらためて注目されています。

議会評価・議員評価の背景

地方分権のもとでの自治体運営は、自己決定、自己責任を基本として、行政および議会においても住民の参加と協働が求められます。とくに、2000年4月の地方分権一括法の施行以降は、議会は脇役から主役になったともいわれ、議会が本来的に持っている機能や役割の発揮いかんでは、自治体運営の成否を左右する時代でもあります。 また、1990年代後半以降においては、自治体に新しい行政手法としてNPM(NEW Public Management)が導入され、自治体がひとつの経営体として経営責任を持ち、組織や業務の効率化・適正化とともに、住民満足を向上させるという「自治体経営」の考え方が広がりました。 自治体経営のもとで、行政に対して政策・施策・事務事業から得られる成果を的確に評価し、効率よく業績をあげ、かつ説明責任を果たすことが求められるようになったのです。

このような地方分権やNPMのもとで、2000年代から徐々にではあるが、議会や議員を評価する動きが見え始めました。小林(2000,2003)は、住民の代表である議員の活動が住民から「見えない」現状を変え、 政治不信を払拭していくためには客観的な評価が必要であると主張し、議員評価手法の確立・定着の意義とともに、具体的な議員評価の基準のポイントを示し、議員評価は地方政治の活性化に結びつくとその意義を説きました。 他方、市民による評価については、小林(同)の論を踏まえ広島県廿日市市議会を事例として市民活動としての議員評価の方法と成果を報告した佐藤(2004)や相模原市をよくるす会による議員評価の事例をはじめとして各地で“議員通知表”の作成が行われるようになっています。

議会評価・議員評価の意義・目的

議会評価・議員評価の意義

議会評価・議員評価の意義については、小林(2005,p.38-40)は住民側の意義と議員側の双方に意義があることを示しています。住民側の意義は、生活の基盤となっている重要な自治体の代表者として、いかにふさわしい人物を選ぶか、その素材を提供するということです。そして、議員側の意義は、議員としての自己の過去の4年間の努力や成果を、いかにして適正に住民に評価してもらうかとういことであるとして、両者の利害が一致しているとしています。

もし、議会が適正な評価を受ける気があるならば、まず自らの活動に関するあらゆる情報を発信しているはずです。情報がないところで、適正な評価は期待できません。すなわち議会評価・議員評価の前提として議会広報の充実がまず必要になるのです。議会広報の充実なくして、議員、議会が適正に評価されるということはありません。

もちろん、積極的に議会評価・議員評価を行っている先駆的な自治体議会もあります(代表例として北海道福島町議会)。

議会評価・議員評価の目的

議会評価・議員評価の目的については、以下のようにいわれています。

  • (1)議員個々人の資質の向上を図る機会を提供する
  • (2)議会改革の到達点を明確にしてさらなる議会改革に向かう素材とする
  • (3)住民が議会・議員を評価する素材、また選挙の際の基準と決める素材を提供することによって、多くの市民に議員・議会・選挙に関心を持ってもらい投票率をアップする

研究者による議員評価の基準

ここでは、2000年代前半における学術的な観点から議論された議員評価の基準を整理します。

小林和弘(2000,2003,2005)

《議場・議会内の活動に関するもの》
  • (1)本会議・委員会への出席回数(出席比率)
  • (2)本会議における発言・一般質問(回数)
  • (3)議員提案や議案の修正(各回数)
  • (4)公約の質・内容・達成度
  • (5)住民の自治や議会改革への取組み
  • (6)重要条例等の案件に対する賛否とその理由
  • (7)政務調査費の使途の公開
《議会外活動》
  • (1)自己の活動報告や議会・自治体等に関する情報提供の程度(議会活動報告)
  • (2)市民との対話によるニーズの吸い上げ
  • (3)議会外のネットワークづくり、地方自治体に対する貢献
  • (4)地域問題の解決やまちづくりへの貢献度
  • (5)選挙のやり方

山崎正(2003)

  • (1)人間性
  • (2)歴史意識
  • (3)先導的役割
  • (4)政策集団
  • (5)選挙公約
  • (6)対地域住民
  • (7)対首長
  • (8)対外姿勢
  • (9)演説の才能
  • (10)後世への遺産

小林は、この評価基準について以下のように述べています。これらの基準には「具体的な数値に明示されうるものから、かなり抽象的で判断するのに相当苦労する項目までをも、あえて含めている。それは、こうした項目を加えることによって、日頃から公約等をより具体的で判断しやすい形で示すことを促すとともに、住民に対して、自己の成果や、実行出来なかった政策等に関しての理由と、実現に向けての今後の取り組み姿勢、あるいは自己点検や診断を通じて議員の意識改革を推進するためにでもある。」(小林,2005,p.41)として、議員による今後の議員評価への取り組み姿勢には取り組み姿勢の改善を期待しているというものです。

山崎は、地方議員の評価について10の評価項目を例示して、「評価には誰からも異論のでない絶対的な評価はありえず、評価する者の数だけ評価表がありうることになるから、どの評価が多数の有権者の支持を得られるか、議論は沸騰するに相違ない。その議論の沸騰のなかから、地方政治を活性化するエネルギーと地方議員の政治意識の向上を期待することができると考える。」(2003,p.234)と述べて、議員への期待を寄せています。

参考文献
  • 小林弘和(2000)「地方議会の活動を評価しよう」『月刊地方分権』(16).
  • 小林弘和(2003)「議会議員の評価基準-評価される地方議会と議員-」『地方議会人』34(2).
  • 小林弘和(2005)「地方議会の改革と議会・議員評価システムの提案」『法学論集』91号,専修大学.
  • 佐藤幹(2004)「地方議会議員評価の可能性」『都市問題』95(6).
  • 山崎正(2003)『地方議員の政治意識』日本評論社.

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